本記事は セキュリティ速報シリーズ第33回 です。
日本がサイバー攻撃の標的になる理由とは
2026年春、日本を狙うサイバー攻撃が急増しています。 2026年3月には、日本の組織に対する攻撃が週平均1,723件に達し、前年同月比で42%増となりました。 この数字で重要なのは、攻撃件数そのものよりも増加率です。 APAC地域の中で日本の増加率が最大だったことから、日本がいま攻撃者にとって優先度の高い標的になっている可能性が高いと考えられます。
日本向けサイバー攻撃が急増している事実
日本が狙われているという見方は印象論ではありません。 NICTは、2025年に観測したサイバー攻撃関連通信が約7,010億パケットで過去最多だったと公表しています。 さらに、日本宛のDRDoS攻撃は約90万件で、前年の約17万件から大幅に増えました。 2026年3月の42%増という民間レポートと、2025年通年の国内観測データを合わせて見ると、日本国内の企業や組織が継続的かつ広範囲に狙われている状況が読み取れます。
生成AIで日本語フィッシングの精度が上がった
日本がサイバー攻撃の標的になる理由の一つは、生成AIの普及で日本語の壁が崩れたことです。 以前は、不自然な日本語が海外発の詐欺メールを見分ける手がかりになることがありましたが、現在はその優位性が急速に失われています。 Proofpointは、AIの進化によって自然な日本語の攻撃文面が作りやすくなり、日本を守っていた“言語バリア”が薄れたと説明しています。 その結果、日本語によるフィッシングメール、請求書詐欺、なりすまし連絡が以前より低コストで大量に生成されるようになりました。
この傾向は実際の攻撃データにも表れています。 2025年2月には、Proofpointが追跡した709件の新規メール攻撃キャンペーンのうち49件が日本を標的にしていました。 また、攻撃ボリューム上位10件のうち9件が日本向けだったと報告されています。 CoGUIフィッシングキットでも日本の組織が高頻度で標的になっており、日本語対応の攻撃基盤が整いつつあることが分かります。
日本企業は情報価値が高く攻撃者に狙われやすい
日本企業が狙われるもう一つの理由は、盗む価値の高い情報を多く持っているからです。 日本には製造業、研究開発、精密機器、物流、金融など、知的財産や業務ノウハウの価値が高い業種が多く集まっています。 そのため、攻撃者が侵入に成功した場合、顧客情報、取引情報、設計情報、サプライチェーン情報などをまとめて取得できる可能性があります。 攻撃者から見ると、日本企業は「攻撃の手間に対して見返りが大きい」標的です。
個人情報の価値も高いと考えられます。 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、決済関連情報は、詐欺、認証突破、追加の標的型攻撃に再利用しやすいデータです。 こうした情報は単独でも価値がありますが、企業情報と組み合わさると、より精度の高いビジネスメール詐欺やなりすまし攻撃に使われる恐れがあります。
DMARCやレガシー環境の弱点が狙われている
日本が狙われやすい背景には、防御面の弱点が残っていることもあります。 すべての企業に当てはまるわけではありませんが、古いVPN機器、レガシーシステム、公開サーバの運用を続けている組織では、脆弱性対応が遅れやすくなります。 攻撃者は新しいゼロデイだけでなく、既知の脆弱性を使って効率よく侵入するため、基本的なパッチ管理の遅れが大きな弱点になります。
メール認証の整備状況も重要です。 Proofpointの2025年調査では、日本の主要企業でDMARCをrejectまで設定していた割合は7.4%にとどまり、65.6%は監視レベルでした。 この数字は、なりすましメール対策が十分に厳格化されていない企業が多いことを示しています。 つまり、日本企業のブランドやドメインを使った偽装メールが、依然として攻撃者にとって有効な手段である可能性があります。
地政学リスクも日本への攻撃を押し上げる
日本が狙われる理由として、地政学的な緊張も無視できません。 Proofpointは、日本へのDDoS攻撃やメール攻撃の増加について、外国政府主導の戦略的攻撃である可能性にも言及しています。 日本は経済規模が大きく、地域安全保障でも重要な位置にあるため、サイバー空間で圧力をかける対象になりやすい面があります。 ただし、どの攻撃が国家関与かを個別に断定することは確認できません。 ここは慎重に扱うべき論点であり、追加調査が必要です。
日本企業が今すぐ実施すべきサイバー対策
日本企業が取るべき対応は明確です。 まず、「自社は有名ではないから狙われない」という前提を捨てる必要があります。 現在の攻撃は自動化されており、中堅・中小企業も十分に標的になります。 そのうえで、メール認証の強化、公開機器の棚卸し、多要素認証の徹底、脆弱性パッチの迅速適用、生成AIへの機密情報入力を制限する社内ルール整備を優先すべきです。
特に重要なのは、日本語の自然さを信用しないことです。 以前は不自然な日本語が詐欺のサインになりましたが、2026年4月時点ではその見分け方だけでは不十分です。 「正しい日本語で書かれているから安全」という判断は危険です。 本人確認、送信元確認、URL確認、添付ファイル確認といった基本動作を、改めて徹底する必要があります。
2026年以降も日本は狙われ続けるのか
今後については、2026年3月の42%増が単月の突出なのか、中長期トレンドの始まりなのかは現時点では確認できません。 ただし、2025年通年の国内観測でも攻撃関連通信は増えており、日本が高優先度の標的である状況は続く可能性があります。 少なくとも2025年から2026年4月時点までの流れを見る限り、日本は「偶然狙われた市場」ではなく、「狙う理由が複数そろった市場」になっています。 だからこそ、企業は単発の注意喚起ではなく、継続的な対策強化を前提に動くべきです。
※本記事は、当社が2026年4月に社内およびクライアント様へご案内したメール内容を基に、Web読者の皆さまにも有益な情報となるよう加筆・編集のうえ公開しています。
出典・参考
Weekly セキュリティ
- 注意喚起: Adobe AcrobatおよびReaderの脆弱性(APSB26-43)に関する注意喚起 (公開)
- Weekly Report: JPCERT/CCが「組織改編のお知らせ -情報発信からインシデント対応支援までの一本化に向けて-」を公開
- Weekly Report: NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayにおける境界外読み取りの脆弱性(CVE-2026-3055)に関する注意喚起
- Weekly Report: IPAが「製品開発者向け・製品利用者向けガイド」を公開
- Weekly Report: 総務省が「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」を公開
