あなたも覚えていませんか?
小学校の昼休み、教室を抜け出して校庭へ向かう途中。ふと立ち止まって、金網フェンスの向こうを眺めていた時間を。
指先でフェンスの金網をつまんでみると、ざらりとした金属の感触。鉄の匂いがほのかに鼻をくすぐります。夏の午後なら、日差しを受けて熱くなった金網が指先にじりっと熱さを伝えてきました。友達と一緒に「向こうに何があるか見てみよう」と、つま先立ちになって覗き込んだ記憶。
こんな些細な瞬間を、あなたも一度は経験しているのではないでしょうか。
金網が教えてくれた「境界」という不思議
金網フェンスは、確かに「内」と「外」を分ける境界線です。でも、よく考えてみてください。コンクリートの壁と違って、金網は向こう側が見えてしまう。
「入ってはいけません」と言いながら、同時に「でも、向こうには何があるか見てごらん」と誘いかけているような、不思議な存在でした。禁止されているからこそ余計に気になる。見えているからこそ、もっと近くで見たくなる。
あの頃の私たちにとって、金網フェンスは単純な「壁」ではありませんでした。むしろ想像力への「入り口」だったのかもしれません。
「向こう側」に託した小さな冒険
「あの道はどこに続いているんだろう」
「あの建物の中では何をしているんだろう」
「あの向こうまで歩いて行けたら、どんな景色が見えるんだろう」
フェンス越しに見える日常の風景が、いつの間にか冒険の舞台に変わっていました。実際に行くことはできなくても、想像の中では自由に歩き回ることができる。そんな「心の中の散歩」を、金網は静かに見守ってくれていたのです。
下校時刻のチャイムが鳴って、「また明日も見に来よう」と小さく約束して教室に戻る。そんな何気ない繰り返しの中に、実は豊かな物語があったのではないでしょうか。
言葉にすることで見えてくる宝物
今、大人になってこの体験を言葉にしてみると、不思議なことに気づきます。当時は「ただぼんやり眺めていただけ」だと思っていた時間が、実は私たちの想像力や好奇心を育てる大切な瞬間だったということに。
国語で大切なのは、こうした「言葉にしづらい体験」を丁寧に掘り起こすことかもしれません。感じたこと、思ったこと、心が動いた瞬間を、自分なりの言葉で表現してみる。すると、記憶の中に眠っていた感情が、まるで宝物のようにきらきらと輝いて見えてくるのです。
あなたの「金網の記憶」はどんなものですか?
ここまで読んでくださったあなたも、きっと何かしらの「金網の記憶」をお持ちでしょう。
それは学校のフェンスだったでしょうか。それとも公園や住宅街で出会った金網だったでしょうか。どんな時間帯で、どんな季節で、誰と一緒にいましたか。そのとき、どんなことを考えていましたか。
一人ひとり違う「金網の物語」があるはず。そしてそれを言葉にしたとき、あなただけの特別な一篇が生まれることでしょう。
おわりに〜身近なものから始まる物語〜
金網フェンス。それは確かに、どこにでもある日用品です。でも国語的な視点で向き合うと、私たちの成長や想像力、そして言葉の力について考えさせてくれる、深い題材だったのです。
普段は素通りしてしまうような身近なものの中に、実はたくさんの物語が隠れている。それを言葉の力で掘り起こし、分かち合うこと。それが、発芽ブログの国語編が目指していることなのです。
シリーズ案内

この記事は「発芽ブログワークショップ」金網編の国語的視点でした。同じ金網を題材に、算数・理科・社会の切り口からも記事をお届けします。一つの身近な素材が、どんなふうに違う顔を見せてくれるのか。ぜひ他の記事も楽しみにしていてください。




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