DXで業務改善を成功させるには?現場に合わせるシステムと変えるべき業務

DXという言葉が広まってから、企業にはさまざまなシステムが導入されてきました。
業務管理システム、勤怠管理、顧客管理、情報共有ツール。
便利になるはずなのに、導入された現場からは「操作が難しい」「入力することが増えた」「前のやり方の方が早かった」という声が聞こえてくることがあります。
これまでのシステム導入では、導入したシステムに合わせて人間が操作を覚え、仕事の進め方を変えることが少なくありませんでした。
しかし、AIが身近になった今、その関係を逆に考えてもいいのではないでしょうか。
人間がシステムに合わせるのではなく、システムの側が人間や会社の仕事の進め方に合わせていく。
ただし、ここにはひとつ注意点があります。
使いやすさを追求することと、慣れたやり方を守り続けることは、同じではありません。
使いやすいシステムが、必ずしも良いシステムとは限らない
例えば、長年使ってきた紙の帳票があるとします。
それをそっくりそのままパソコンの画面に再現すれば、現場の人は比較的迷わず操作できるかもしれません。
しかし、紙の帳票にあった記入欄や確認手順を、そのままデジタルに持ち込む必要があるのでしょうか。
そもそも、その記入や確認は何のために行っていたのか。
情報を別の帳票に転記するためだったのなら、データを一度入力するだけで済む仕組みに変えられるかもしれません。
集計のために記入していたのなら、集計そのものを自動化できるかもしれません。
慣れた画面を再現するだけでは、以前の業務の無駄まで引き継いでしまう可能性があります。
現場の負担を減らすことは大切です。
でも、今の仕事のやり方を一切変えないことが、最善とは限らないのです。
フリック入力を覚えたのは、速く伝えたかったから
少し身近な話をします。
私はパソコンのキーボードを、いわゆる正しいブラインドタッチで打つことができません。
それでも、長年使っているうちに我流でかなり速く入力できるようになりました。
スマートフォンに変わったときも、最初はフリック入力になかなか慣れませんでした。
ところが、使い続けているうちに、驚かれるほど速くなりました。
別にタイピングの技術を磨きたかったわけではありません。
ただ、自分の考えていることを早く伝えたかった。
そのために必要だったから、自然と速くなったのです。
ところが、音声入力の精度が高くなるにつれて、文字を打つ機会が大きく減りました。
スマートフォンでは今でもフリック入力を使いますが、パソコンではほとんどキーボードを使わなくなっています。
そのせいか、たまにキーボードで入力すると、以前より打ち間違いが増えたように感じます。
今ではパソコンでもスマートフォンでも、かなりの文章を音声で入力しています。
これまで身につけてきた入力技術が、もったいないとは思いません。
目的はキーボードを速く打つことではなく、自分の考えを伝えることだからです。
もっと楽に伝えられる方法があるなら、そちらを使えばいい。
摩擦には、なくすべきものと乗り越える価値のあるものがある
新しい仕組みを導入するとき、多少の摩擦は避けられません。
操作を覚える必要があるかもしれませんし、仕事の順番や担当を変える必要があるかもしれません。
ただ、その摩擦を乗り越えた先に、今までの2倍以上の効果が期待できるとしたらどうでしょう。
最初に少し努力してでも、新しい方法を身につける価値があるかもしれません。
私自身、フリック入力を覚えた経験がまさにそうでした。
一方で、システムの都合によって発生する二重入力や、意味のない画面の切り替え、複雑な操作を、現場に我慢してもらう必要はありません。
ここは区別して考えるべきだと思います。
なくすべきなのは、すべての摩擦ではなく、無駄な摩擦です。
そして、乗り越えてもらう必要がある摩擦については、その先にどんな効果があるのかを、現場の人にも分かるようにする必要があります。
経営者だけが便利になる仕組みでは、現場に定着しません。
AIによって、システムの側が人間に近づけるようになった
従来のシステムでは、決められた入力欄に、決められた形式で情報を入力することが基本でした。
しかし、AIを組み合わせることで、その前提も変わりつつあります。
例えば、現場の担当者が一日の仕事を報告するとき。
決められた項目を一つずつ入力するのではなく、普段話している言葉で報告する。
AIがその内容を整理して、必要な項目に振り分ける。
不足している情報があれば、追加で質問する。
こうした仕組みなら、現場の人がシステムの入力形式を細かく覚える負担を減らせます。
もちろん、AIの解釈が正しいか確認する仕組みは必要です。重要な情報を勝手に補ったり、誤った内容で記録したりしないようにすることも欠かせません。
それでも、人間が機械の決めた形式に合わせるしかなかった時代から、機械の側が人間の言葉や仕事の流れを理解する方向へ進んでいることは、大きな変化だと感じています。
DXの目的は、システムを使うことではない
DXを進めるとき、つい「何を導入するか」という話から始めてしまいます。
しかし、本来考えるべきなのは「何を変えたいのか」ということです。
現場の記録作業を減らしたいのか。
情報共有を早くしたいのか。
確認漏れを防ぎたいのか。
その目的によって、必要な仕組みは変わります。
場合によっては、新しいシステムを導入する必要すらないかもしれません。
反対に、大きな効果を得るためには、これまでの仕事の進め方を思い切って変える必要があるかもしれません。
だからこそ、現場に合わせることを基本にしながらも、慣れたやり方に固執しない。
人間が変わるべきところと、仕組みが変わるべきところを見極める。
それが、これからのDXに必要な考え方ではないかと思います。
人間をシステムに合わせるのではなく、まずシステムを人間に合わせる。
ただし、変わることで大きな効果が得られるなら、人間も変わっていい。
目指したいのは、摩擦がまったくないシステムではありません。
無駄な摩擦を減らし、必要な変化には、それを乗り越えるだけの価値がある仕組みです。
