
AIの新しいモデルが登場するたびに、性能がどれだけ向上したのかが話題になります。
推論能力が上がった。プログラムを書くのが得意になった。複雑な指示にも対応できるようになった。
もちろん、AIの性能が向上することは歓迎すべきことです。
ただ最近、AIを使いながら、少し違うことを考えるようになりました。
AIの性能を引き上げることと、今あるAIの性能を引き出すことは、別の話ではないだろうか。
きっかけは、AIのモデルを変更したことではありません。
音声入力の方法を変えたことでした。
AIへの説明を、面倒だと思わなくなった
私は以前からスマートフォンでもパソコンでも音声入力を使っていました。
ただ、認識の間違いを修正したり、入力し直したりする手間があり、キーボードやフリック入力を使う場面も多くありました。
最近、Typelessという音声入力ツールを使い始めました。
これが、私には非常に合っていました。
思いついたことをそのまま話せる。長い説明も苦にならない。認識精度も、これまで使っていた方法より自分には使いやすく感じます。
そして、予想していなかった変化が起きました。
AIに伝える情報量が、自然と増えたのです。
これまでは、AIに何かを依頼するとき、必要なことだけを短く入力することが少なくありませんでした。
もちろん、長く説明した方がよいと分かっている場面もあります。
でも、そのために文章を入力する手間を考えると、つい省略してしまう。
音声入力が快適になると、その省略が減りました。
なぜそう考えたのか。以前はどうしていたのか。今回は何を変えたいのか。
そうした背景まで、気軽に伝えられるようになったのです。
「ちょっと違うけど、まあいいか」が減った
もうひとつ、大きな変化がありました。
AIの回答を読んでいると、時々「そういう意味で言ったんじゃないんだけどな」と感じることがあります。
以前なら、その違いを説明するために、また文章を入力しなければなりませんでした。
小さな違いなら、訂正する手間の方が面倒に感じる。
「ちょっと違うけど、まあいいか」
そうやって流していたことも、少なくなかったと思います。
ところが、音声入力なら、その場ですぐに説明できます。
「いや、そうじゃなくて、私が言いたかったのはこういうことです」
相手が人間なら普通にしていることですが、AIに対しても気軽にできるようになりました。
つまり、変わったのは最初の指示だけではありません。
AIの回答に対して、追加説明や訂正をすること自体が楽になったのです。
この違いは、思っていた以上に大きいものでした。
ブログのタイトルが、対話の途中で変わった
実は、この記事のタイトルも、そのやり取りから生まれました。
最初は、音声入力によってAIとの付き合い方が変わった、という話をしていました。
そこから、入力の手間が減ると、AIに詳しく説明できるようになるという話になりました。
さらに、こんな疑問が浮かびました。
「よほど難しい問題でなければ、最新のAIモデルでなくても、背景を詳しく伝えれば十分な回答が出せることも多いのではないか」
AIに質問すると、モデルの性能だけでなく、渡す情報によっても回答の質が変わるという話になりました。
そこで出てきた言葉が、
「AIの性能を引き上げること」と「AIの性能を引き出すこと」は違う。
というものでした。
私は、この言葉を見て、記事のタイトルにしたいと思いました。
最初から、このタイトルを考えていたわけではありません。
音声入力で思いついたことを話し、疑問を投げかけ、回答を読み、また話す。
その繰り返しから生まれたタイトルです。
そして、そのこと自体が、今回書こうとしている内容の実例になっていました。
最新モデルでなければ、良い回答は出せないのか
もちろん、AIのモデルによる性能差はあります。
難しい推論、複雑なプログラムの開発、大量の資料を読み解く作業などでは、モデルの能力が結果を大きく左右することがあります。
ただ、日常的な仕事のすべてが、そこまで高度な能力を必要とするわけではありません。
例えば、メールの文章を考える。業務報告を整理する。ブログの記事を書く。社内向けの説明文を作る。
こうした作業では、最新モデルかどうか以上に、依頼する側がどれだけ必要な情報を伝えられているかが重要になる場面もあります。
何のために書くのか。
誰に読んでもらいたいのか。
これまでにどんな経緯があったのか。
何を変えてはいけないのか。
そうした情報が不足していれば、高性能なAIでも一般的な回答になりやすい。
反対に、目的や背景が十分に伝わっていれば、最新ではないモデルでも、実用的な回答を出せることがあります。
もちろん、情報を増やせば必ず正確になるわけではありません。AIが誤解することもあれば、重要な条件を見落とすこともあります。
だからこそ、回答を確認し、必要なら訂正することが大切です。
そして、その訂正の手間が小さくなることにも意味があるのです。
AIの導入では、入力の摩擦にも目を向けたい
企業でAIを導入するとき、どのモデルを使うか、どのサービスを契約するかという話になりがちです。
それも必要な検討ですが、もうひとつ考えたいことがあります。
社員がAIに情報を伝えること自体を、面倒に感じていないか。
例えば、現場の担当者が一日の作業を報告するとします。
決められた入力欄を埋めるのは面倒でも、今日あったことを話すだけなら負担が小さい人もいるでしょう。
その話をAIが整理して、報告書の下書きにする。
不足している情報があれば質問し、本人が確認してから記録する。
そんな仕組みであれば、AIの性能を上げなくても、現場での使われ方は変わるかもしれません。
もちろん、音声入力がすべての人や職場に向いているわけではありません。
周囲の騒音、機密情報、話しにくい環境など、考慮すべきことはあります。
大切なのは、音声入力を導入することそのものではありません。
人間がAIに情報を伝えるまでの負担を、どうすれば減らせるか。
そこを考えることだと思います。
AIを賢くする前に、AIと話しやすくする
今回、私が使っているAIのモデルが突然賢くなったわけではありません。
変わったのは、自分の入力方法です。
ところが、背景を詳しく説明できるようになり、ちょっとした違和感も訂正できるようになったことで、AIとの対話が以前より深くなったと感じています。
これまでなら省略していた話をする。
これまでなら流していた違和感を伝える。
すると、そこから新しい発想が生まれることもある。
この記事のタイトルも、そのひとつでした。
AIの進歩を待つことも大切です。
でも、今あるAIの能力を十分に使えているかを考えることにも、同じくらい価値があるのではないでしょうか。
AIの性能を引き上げることと、AIの性能を引き出すことは違う。
新しいモデルを導入する前に、まずはAIに話しかけやすい環境を作ってみる。
それだけでも、AIとの付き合い方が変わるかもしれません。
